長引くコロナ禍の影響はこんなところにも
2020年初頭から流行し始めた新型コロナウイルス感染症により、小売業・飲食業を中心に、多くの企業が大幅な減収・減益に見舞われています。特に、飲食業は東京都・大阪府などの大都市において度重なる緊急事態宣言・まん延防止等重点措置による営業時間の短縮、酒類提供の自粛を求められていることから、深刻なダメージを受けているのが現状です。なお、民間調査会社・帝国データバンクがまとめたところによれば、2020年の飲食店の倒産件数は780件にも上りました。同社によれば、これは調査を開始して以来過去最多の水準とのことです。
参照:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p210101.pdf
そして、倒産という事態にまでは至っていないものの、様々な策を講じて、事業の継続に奔走している事業主はたくさんいるでしょう。「自分のことは良いので、頑張ってくれているスタッフに給料を払わないと」という気持ちで、役員賞与の返上を考える事業主もいるはずです。確かに、従業員にとっては「うちの社長、ありがたいな」と思ってもらえるかもしれませんが、税務上は慎重な対応が必要なので注意してください。
会計上の影響はゼロでも税務上の影響が生じる
本来、役員賞与に関しては、事前確定届出給与として税務署に届出を行うことで、損金算入が可能となる仕組みです。つまり、株主総会で決議を行った上で議事録を作成し、期限までに所定の事項を記載した届出書を提出た上で、届出書に記載された時期と金額が完全に一致した形で役員賞与が支払われれば、損金として認められます。
このため、新型コロナウイルス感染症の影響で「役員賞与は返上します」という話になった場合は、損金算入するための前提が狂ってしまうのです。会計上は「役員賞与は出さなかった=金銭も動かなかった」ので特段仕訳をする必要はありませんが、税務上は仕訳をしておかないとNGなので注意しましょう。
わかりやすい例えとして「株主総会で決議された役員賞与支給額を200万円としていたものの、業績の悪化が見込まれるために支給自体を取りやめた」場合、「(借方)役員賞与 200万円 (貸方)未払金 200万円」「(借方)未払金 200万円 (貸方)債務免除益 200万円」という仕訳が必要になります。
ただし、これらの処理を行わなくてはいけないのは「支給日の後に支給を取りやめた(返上することにした)」ケースです。仮に、支給日が到来するまえに、取締役会等で全額不支給の決議を行い、返上することを決めていた場合は、税務上の処理も必要なくなります。
なお、事前確定届出給与については「やむを得ない事情」に該当すれば、業績悪化改定事由・臨時改定事由があったものとして、ゼロにすることを含めた減額が認められる可能性が高いです。新型コロナウイルス感染症を理由とした経営状態の悪化も「やむを得ない事情」に該当する可能性が高いので、一度税理士と相談し、どう進めていくかをすり合わせておきましょう。