後から「実はこれだけかかっていて」と言ってもアウト
税務調査においては、調査官から帳簿など必要な書類を見せるようもとめられた場合は、指示通りに出さなくてはいけません。「守秘義務があるから」と見せるのを拒んだり、いわゆる裏帳簿など虚偽の内容の書類を見せたりした場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます(国税通則法第128条)。しかし「わざと見せなかったわけではなく、単に記録が追い付いていなかった場合」はどうなるのでしょうか。
例えば、社内に経理担当者が1人しかいなかったり、事業主が自ら経理処理をしたりしているなどの事情があり、本来は帳簿に記録すべき経費があったとしても、記録が追いついていないケースを考えるとわかりやすいでしょう。この場合、本来であれば他の書類も調査し、実際に経費が生じたのかを調査するのがしかるべき対応なのかもしれません。しかし、仮想隠蔽や無申告など、既に重いペナルティを与えるべき事態にまで綿密に調査を進めるのは、時間や費用の面から見て現実的ではないでしょう。
このような背景もあり、令和4年度税制改正においては、簿外経費の扱いについて一定のルールが設けられました。[1] 詳しくは後述しますが、税務調査に至った段階で「実は帳簿に記録していない部分でこれだけ経費がかかっていて」と主張しても認められないということです。
仮装隠蔽又は無申告に係る簿外経費の必要経費・損金不算入とは
簡単にまとめると、仮想隠蔽が疑われたり、無申告だったりした年分(事業年度)において、納税者が確定申告書に記載しなかった費用があったとしても、以下のいずれかにあてはまらない限りは、必要費用として認められない(損金不算入)ということです。
- 保存する帳簿書類等により明らかに経費がかかったことがわかる
- 保存する帳簿書類等により取引の相手先や発生した事実が明らかで、反面調査を行って証拠も入手できた
この規定は、個人については2023(令和5)年分以降の所得税について、法人については2023(令和5)年1月1日以降に開始する事業年度から適用されます。[2] そもそも、仮想隠蔽や無申告の場合、無申告加算税や過少申告加算税などのペナルティの対象となるため、注意しましょう。また、発生した取引についてはもれなく記録し、適切なタイミングで記帳するのをおすすめします。あくまで、今回盛り込まれた規定は仮想隠蔽や無申告など、明らかに不適切なケースを想定したものです。しかし、適切に申告をしている場合でも、記帳がない場合、税務調査において調査官から追及される可能性が高くなります。「これはどう扱えば良いのかわからない」という場合は、適宜税理士に相談し、対応を進めましょう。