賃上げ促進税制は従業員にも事業主にも嬉しい制度
中小企業向け賃上げ促進税制とは、資本金額が1億円以下など一定の条件を満たす企業に対し認められた、賃上げや人材育成投資による税額の減額制度です。つまり、給与の支給額を一定割合以上増加させたら、増加分に控除率をかけた金額を税額から控除できます。なお、税額控除額は増加率によって異なる仕組みです。
また、前年度と比べて教育訓練費の額が増加していたり、「くるみん」「えるぼし」など子育てとの両立・女性活躍支援に関する認定を受けていたりする場合は、控除率がそれぞれ5%ずつ上乗せされます。
さらに、企業が従業員の奨学金の代理返還を行う際、その経費も賃上げ促進税制における給与等支給額の対象とすることが可能です。企業から日本学生支援機構に送金する形も取れるため、希望者がいれば対応すると良いでしょう。
なお、賃上げ促進税制に定める要件を満たした賃上げを実施した年度において控除しきれなかった金額があっても、その金額は最大5年間繰り越せます。万が一、賃上げをした年度が赤字になったとしても、5年以内に黒字になれば控除していない額を税額控除することが可能です。
賃上げ促進税制を使うメリット・デメリット
賃上げ促進税制を使うことにはメリットがある一方、デメリットもあります。まず、メリットは節税になることと、事業主にとっては優秀な人材を採用できる可能性が出ることです。賃上げ促進税制を利用できるということは、給与を上げたり、働きやすい環境を整備したりなど、従業員を大切にする姿勢がうかがえる企業であると考えられます。当然、優秀な候補者が集まってきやすいため、事業主にとっては事業を発展させるうえで強力な推進力になるはずです。
一方で、賃上げを前提にする以上、無理に適用を受けようとすると資金繰りが苦しくなる可能性があります。法人税や所得税の金額を抑える効果はあるものの、その分従前より多く給与を払わなくてはいけない以上、資金繰りに及ぼす影響も大きいためです。また、一度賃上げをすると元に戻すのは従業員の反発を招きがちになるため、慎重に行う必要が出てきます。さらに、教育訓練費の上乗せ要件が複雑であったり、適用年度と前事業年度の月数が異なる場合は調整が必要になったりと、制度を使うためには調整を重ねなくてはいけません。賃上げ促進税制は2027年3月31日までの事業年度が対象となっているため、利用するなら早めに社会保険労務士や税理士に相談しましょう。
なお、厚生労働省では「最低賃金・賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル」を公表しています。今回紹介した賃上げ促進税制を含め、賃金引上げに利用できる公的制度が分かりやすく解説されているのでぜひ参考にしてください。